個人でお店や会社を始める際に、事業の始め方を調べていると、「開業届」という言葉を頻繁に目にします。開業届とは、「これからこのような事業を始めます」という報告書のようなもので、税務署に提出します。逆に「今までの事業を辞めます」という報告が廃業届です。
これまで会社員として生活してきたのであれば、馴染みのない開業届。
「必ず出さなきゃいけないの?」「開業届って 1 ヵ月以内に出さいといけないものだったの!? もう開業から半年は経ってるけど、どうしよう…」「開業届を提出して、メリットはあるの? 税金がかかったりするんじゃないの?」。
様々な疑問・不安を抱くかもしれません。ここでは開業届を提出するメリットと、提出する際の注意点、そして具体的な提出方法についてご説明します。
開業届とは
開業届とは、個人事業を開業したことを税務署に申告するための書類で、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
個人事業の「開業届」は 2 種類あります。税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」と、都道府県税務署に提出する「個人事業税の事業開始等申告書」です。
一般的には、税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」のことを開業届といいますので、今回は「個人事業の開業・廃業等届出書」についてご説明したいと思います。
※ 「個人事業税の事業開始等申告書」は、提出しなくても罰則はありません。このため税務署に開業届は提出しても、「事業開始等申告書」は提出しない人も少なくありません。
開業届は、節税できる「青色申告書」を始めるために必要!
まず、開業届を提出せずに事業を始めても、特に罰則はありません。また、事業を始めて 1 ヵ月以内に提出するようにとされていますが、実際は 1 ヵ月を経過してから提出しても問題はありません。
提出せずとも特に問題ないこの開業届。面倒だから提出しないでおこう…と考えてしまうかもしれませんが、開業届を提出することで、得られるメリットが大きく 5 つあるのです。
① 「青色申告書」で節税できる
開業届を提出すると、確定申告の際に青色申告書で申告ができるようになるのですが、この青色申告書を使って確定申告をすると、節税になります。
青色申告書に関しては別の記事で詳しく解説しますが、簡単に言えば「しっかり損益を記帳してくれたお礼に、税金を 10 万円~※ 減らしてあげます」という制度です。
「青色申告書」での節税対策には、家族を「青色申告専従者」にして給与を払うという方法もあります。給与分が経費になります。
例えば、経理のところだけ実母に手伝ってもらう、姉に子育ての合間にWEBサイト更新を手伝ってもらう、こういった場合、家族分の給与が経費で落とせると節税ができます。
このような節税効果の大きい青色申告を利用しない手はないのですが、開業届を出していないと、上記のような利用できません。
なお、青色申告をするためには、青色申告承認申請書の提出も必要になりますので、こちらも合わせて作成・提出しましょう。
青色申告と白色申告の違いを解説! 「節税になる」と言われるのはなぜ?の記事も参考にしてください!
※実は、青色申告にも 2 種類あります。
・青 10
・青 65
一般的に青色申告と呼ばれるのは複式簿記の「青色65万円控除」を指しますが、単式簿記かつ現金主義と呼ばれる帳簿作成が簡単な「青色10万円控除」というものが存在します。
もし「白色よりは節税したいけど記帳は簡単に済ませたい」と考えているのであれば、「青色10万円控除」を使ってみるのもいいかもしれません!
② 屋号の名義で銀行口座を作ることができ、信用度アップ
屋号を正式に決め、その名義の銀行口座を振込先として提示することで、個人名で活動するよりも社会的な信用は上がります。
プライベートと事業用でしっかり銀行口座を分けることで経理処理がやりやすくなります。開業届を出したら「屋号付き銀行口座」を開設することをおすすめします。
③ モチベーションアップに繋がる
これは気持ちの問題ですが、「正式に開業した」という事実を作ることで、モチベーションがアップする人は多いようです。
以上、3つが開業届を出す大きなメリットです。特に節税効果が高いのは、嬉しいですね。
④ 家族への給与を経費にできる
例えば、母親に事務仕事をお願いして、母親に支払った給料があった場合は、給料を経費として計上することができます。青色専従者給与といって、「青色専従者給与に関する届け出」を税務署に提出することによって、15歳以上の家族に対する給料を経費にできるようになります。
⑤小規模企業共済に入ることができる
個人事業主にとって忘れてはいけない『小規模企業共済』は、退職時や廃業時に給付金をもらえる制度です。会社員と違い退職金がない個人事業主にとって、この制度は重要であり、多くの事業者が加入しています。
こちらは開業届を出して個人事業主として認められることにより小規模企業共済に加入することができます。
小規模企業共済については、下記の記事を参考にしてください!
個人事業主やフリーランスも退職金がもらえる! メリットいっぱいの小規模企業共済とは?
開業届を出すデメリットはあるの?
① 失業手当がもらえない
失業手当をもらっている人は注意です!開業届を提出したということは「事業をしている」すなわち、失業している状態ではないと見なされてしまうことから、失業手当の受給資格はなくなってしまいます。
「個人事業主になりたいと思っているけど、再就職も視野に入れてもう少し仕事も探したい」という状態であれば、働く意思のある失業者という身なので、失業手当を受け取ることはできます。そのような場合は、開業届の提出はしばらく待った方が金銭的に苦しまなくて済みます。失業中であれば、開業するか、再就職するか、よく考えてから届け出をしましょう。
②主婦の副業でも扶養から外れる可能性がある
会社員である配偶者の扶養に入っている場合は、開業届を提出することにより、配偶者の扶養から外れてしまう可能性があります。扶養から外れると、収める税金の額が増えることがありますので注意が必要です。
一般的に「扶養控除」とよばれるものには、所得による扶養控除 と社会保険に対する扶養控除の2つがあります。社会保険に対する扶養控除の場合は、扶養主の方が入っている健康保険の組合によって、条件はそれぞれ異なってきますので扶養主の方が加入する組合の扶養認定基準をご確認ください。
開業届を提出するなら、税務署へ
失業手当も受け取っておらず、開業届を出したい、という方は、開業届に記入して、最寄りの税務署に提出しましょう。
開業届は国税庁のサイトからダウンロードすることができます。
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
開業届の記載事項はざっくり、以下の通りです。
1.提出先の税務署
開業届の提出先の税務署は納税地を所轄する税務署です。
納税地は原則住民票がある場所となりますが、住民票がある場所と現在住んでいる場所(居所地)が異なる場合は、現在住んでいる場所で納税することも可能です。
また、自宅とは別に事務所や事業所がある場合は事務所や事業所の所在地を納税地とすることも可能です。
国税庁の公式サイト で納付先税務署を調べて記入してください。
2.提出日
実際に提出する日付で問題ありません。年度は和暦でも西暦でもどちらでも可能です。
3.納税地
住所地、居所地、事業所等から選択してその住所を記載してください。
電話番号は固定電話でも携帯電話でも問題ありません。
4.上記以外の所在地・事業所等
納税地以外に住所地・事業所等がある場合には記載してください。
例えば、開業するお店や事務所が別の場所にある場合は、ここに郵便番号、所在地を記入してください。住んでいる場所のみの場合は空欄で問題ありません。
5.氏名・印鑑
氏名の欄には印鑑を押します。
特に指定はないので個人の印鑑でも屋号印でもどちらでも問題ありません。
6.生年月日
生年月日を記載してください。
7.個人番号
マイナンバーを記載してください。
8.職業
職業欄は開業する職業を記入してください。
例えば、エンジニア、デザイナー、ライター、飲食業、フリーランス、士業、芸能など・・・です。
9.屋号
空欄でも構いませんし、後から変更することも可能です。
開業するお店や事業の名前があれば、ここに記入してください。
10.届出の区分
開業の場合は、開業に丸をつけるだけで、住所、氏名欄は空白で問題ありません。
住所、氏名欄には、事業の引継ぎを受けた場合のみ記載します。
11.所得の種類
お店やフリーランス、一般的なビジネスを開業するのであれば、事業所得を選択します。
ただし、開業届の対象となる事業が不動産賃貸がメインである場合は、不動産所得を選択します。
12.開業・廃業等日の書き方
開業した日を記入してください。
開業日に特に決まったルールはありません。
13.事業所等を新増設、移転、廃止した場合
開業の場合は、空欄で問題ありません。
14.廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
開業の場合は、空欄で問題ありません。
15.開業・廃業に伴う届出書の提出の有無の書き方
→「青色申告承認申請書」又は「青色申告の取りやめ届出書」
青色申告を予定している人は「有」を選択して、青色申告承認申請書を一緒に提出しましょう。
→消費税に関する「課税事業者選択届出書」又は「事業廃止届出書」
個人事業主の開業当初は免税事業者になりますが、あえて課税事業者を選択する場合は課税事業者選択届出書を提出します。
提出しない人は「無」を選択しましょう。
16.事業の概要
事業の内容を具体的に記載してください。
どのような業態で、どのように売上を得ているかを具体的に記入します。
例えば、
・WEBメディアの執筆
・WEBサイトの企画、制作、構築、運営
・ネイルサロンの経営
・インターネットサービスの開発・運営
・パンの製造と販売 など
17.給与等の支払の状況
開業当初から家族に給料を出して手伝ってもらったり、従業員を採用したりするのであれば、この情報を開業届に記入しておきます。
「従事者数」の欄は、雇用する人が配偶者や親、子であれば「専従者」欄に、そうでなければ「使用人」欄に人数を記入します。
「給与の定め方」の欄は、「日給」や「月給」などと記入します。
「税額の有無」の欄は源泉徴収をする人は有、そうでない人は無となります。
給与を支払うと基本的に源泉徴収することになります。
18.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
源泉徴収を納付する義務がある場合、納期の特例の承認に関する申請書を提出すると、毎月納付しないといけないところを半期に一度にまとめることができます。
19.その他参考事項
空欄で問題ありません。
20.関与税理士
もし顧問の税理士さんがいらっしゃれば、税理士さんの氏名と電話番号を記入してください。
いない場合は、空欄で問題ありません。
開業届をダウンロードしてから 2 部、記入して税務署に郵送するか、直接窓口に持っていきます。2 部記入する理由は提出用とは別に、あなたが控えとして持っておくことができるようにです。
この開業届の控えが、後々、屋号で銀行口座を開設する場合などに必要になります。必ず取っておくようにしましょう。郵送で開業届を提出する場合は、控えとして 1 部送り返してほしい旨の手紙を添え、返送用の封筒も同封します。
「職業」によって税率が変わるので注意
先ほど、開業届の記載事項を紹介しましたが、開業届を出すときに選ぶ「職業」によって税率が変わるので注意が必要です。
例えば、ライターの活動がメインの場合、職業欄に「文筆業」と書けば事業税は非課税です。ウェブデザイナーやイラストレーターなどのデザイン業は5%の個人事業税がかかります。しかし、ライター業でも仕事内容によっては請負業と判断され、個人事業税が課税されてしまう場合があります。
個人事業主の開業届まとめ
開業届は、提出しなければ罰があるようなものではありませんが、提出することで節税のメリットと、社会的信用・モチベーションがアップするメリットがあります。
失業手当を受給していない場合は、開業届を提出し、節税準備と決意固めをしてみてはいかがでしょうか?
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