2017年6月にインタビューをさせていただいたRICCI EVERYDAYさんは、2018年8月26日に設立3周年を迎えられたそうです。
そこで『RICCI EVERYDAY設立3周年』を記念して、日本でのイベントやポップアップショップをはじめ、RICCI EVERYDAYとしてウガンダを拠点に周辺各国への事業拡大を目指しているオーナーの仲本さんへ、これまでの変化とこれからの目標についてお話をお伺いしました!
体制を整えてきた1年半
STORES.jp編集部(以下STORES.jp):
前回のインタビューから約1年3ヶ月。前回のインタビュー時にこれからの課題であるとお話されていた『もっとたくさんの女性を雇用して生産性をあげていくこと』について、どのように変化されましたか?
RICCI EVERYDAY仲本さん(以下 仲本さん):
人数で言うと、この1年ちょっとで工房のメンバーは倍の13人に増えました。7人と6人の2チームに別れて、それぞれ布のミシン縫いと革の手縫いを担当しながら、商品製作にあたっています。
また、ウガンダに2号店ができたので、1号店と合わせてショップスタッフが4人、私のマネジメント業務をしてくれるアシスタントが1人、私を含めて合計19名で活動しています。
スタッフの大部分がウガンダの女性たちで、工房は30代、ショップは20代前半くらいのメンバーが多いですね!
STORES.jp:
だいぶ人数が増えましたね!人数が増えると「教育」というコストが新たに必要になってくると思うのですが、そこはどのように対応されてきたのでしょうか?
仲本さん:
基本的には、今働いているメンバーの紹介で縫製経験のある人を採用しているので、当社で0から縫製技術を教えるといったことはありません。
ただ、チームに入ったばかりの頃は、みんな60〜70%くらいの完成度の商品しか作ることができないんです。
これはもう文化の違いだと思うのですが、ウガンダの人たちは「形になれば完成」という感覚があって、縫い方の強度が弱くても、縫い目が斜めになっていても、すぐ壊れてしまっても、ものが完成すれば細かいところまで気にしないんですよね。
でも、日本はそうじゃない。
『長く使えてこそ良い商品』と品質が重視される日本で、日本人が期待する100%の商品が作れるようになるためには、マインドセットを変えてもらうところからスタートし、かなりの練習を積んでもらう必要があります。
1人1人が会得するのに、約半年から1年くらいは時間がかかるのですが、ブランドとして良いものをお客さまにお届けしなければいけないので、商品の完成度については手を抜かずに指摘をするようにしています。
ただ、細かい指摘は、時にはネガティブな印象を与えてしまうこともあると思うんですよね。
だからこそ、頭ごなしにダメだと伝えるのではなく
「ここをしっかり縫わないと、ストラップが外れてしまうよね」
「カードケースの端が斜めになっているとカードが入らなくて、お客さまは困るよね」
など、
「なぜだめなのか」
「なぜ直さなければならないか」
「お客さまがこの仕上がりをどう感じるのか」
ということを具体的に伝え、『こうした細かい指摘はよりよいものを作りあげていくための大切なプロセスである』ということを、彼女たち自身がしっかりと納得できるような指導の仕方を心がけています。
STORES.jp:
仲本さんの商品への思いがしっかりと工房で働く職人さんたちに伝わり、こうしてRICCI EVERYDAYさんの質の高い商品が生まれるのだなと実感しました。
RICCI EVERYDAYさんはウガンダの女性たちが自立した生活ができるようになることもサポートされていたと思いますが、彼女たちの生活に変化はあったのでしょうか?
仲本さん:
会社としてしっかりとサポートできる体制が整ってきたことで、彼女たちの生活も少しずつ安定してきたのかなと感じます。
工房の女性の子どもたちは通期で学校に通えるようになってきましたし、とある女性の子どもたちは大学まで進学することができたんです!
大学への進学なので、学費もその分高く、お母さんはさらに頑張らないといけないですけどね笑
STORES.jp:
しっかりとしたサポート体制を取られているんですね!
仲本さん:
そうですね。現在は適正水準の給与を支給するだけでなく、年金制度への加入や医療費の一部補助、無利子ローンの仕組みなど、福利厚生を拡充しました。
最初はウガンダ女性の生活の支援を目的として事業をスタートさせたわけではなかったんです。雇ってみたらシングルマザーが多くて、どうしてかなと理由を掘り下げてみたら、彼女たちが置かれている現状が見えてきたんです。
例えば、ウガンダの学校は3学期制なのですが、各学期がはじまる前に学費の支払いができないと、子どもたちは学校に通うことができません。学校に行っても、支払い証明がないと追い返されてしまうらしいです…。
今学期は学校にいけたけど次の学期は学校にいけない、次の学年に進めないということもよくあります。
「お金がたりなくて子供を学校に行かせてあげられない…」
「元旦那が期日までに教育費を払ってくれなかった…」
「こんなに大変なのは自分のせいだ…」
彼女たちはこうした思いを抱えながら、家族を守るために惨めな思いをしてでも周りに頭を下げてお金を借り、どうにか苦しい状況を乗りきる…そんな生活をずっと続けていました。心理的な負担もかなり大きかったと思います。
そして、こうした彼女たちの心理的な負担はもの作りにまで影響してくるんです。
というのも、もの作りには作り手の感情がそのまま現れてしまうんですよね。
イライラしている時は縫い目がガタガタになったり、雑になることもあります。
また、誰かのイライラで工房の雰囲気が悪くなり、他の人のパフォーマンスにも影響し、結果的に商品の完成度が下がってしまう…
これは違うなと思ったんです。
ブランドとして良い商品をお客様にお届けすることが一番の目的なので、そのためには工房で働く彼女たちが生産に集中できる環境をつくらなくてはいけない、つまり、彼女たちが自立した生活ができるようにサポートしていく必要があるなと。
それこそ、事業立ち上げ当初はお給料を支払うのがやっとだったのですが、ここ1年半くらいで、サポート体制が整ってきました。
例えば、まとまったお金が必要な場合は会社から事前に貸付をし、無利子で給料から天引きをしていくという仕組みなどです。
また、最近では医療費の一部補助も行っています。
ウガンダには国民皆保険制度がないので、医療費が各家庭の大きな負担となってきます。
病院に行ってきちんとした治療を受けられず仕事を休みがちになったり、働きたくても仕事にいけなくなったりという人も、中にはいます。
ただ、経営的目線で考えると、工房スタッフがいないと商品が作れない=商売にならない=会社として成長できないので、会社の根幹は一生懸命に働いてくれる彼女たちなんですよ。
つまり、彼女たちが100%の力を出せる環境作りをしていくことが、経営者としての私の仕事なんだということにある時気がつきました。
また、様々な福利厚生を整えたことで、離職率もかなり低く抑えられています。
技術の高い女性たちに、長く、楽しく働いてもらうためにも、福利厚生の改善は引き続き行っていくつもりです。
3年を迎えた今、次の課題とは?
STORES.jp:
ウガンダの女性たちをサポートする体制作りを整えてきた1年半ということですが、今後の課題はなんだと思いますか?
仲本さん:
- 品質管理体制整備
- 生産管理
- 作り手とお客さまが繋がることのできる場所作り
が今の課題かなと思います。
〜品質管理体制を整える〜
今は商品が100%完成した段階で品質チェックの体制を取っているのですが、「ここ直したい!」と思っても、すでに完成してしまっているから修正できないということもあるんです。
もっと早い段階でチェックできていれば修正できたのに…と悔しい思いをすることもあります。
これは、ものづくりの段階を細分化し、各段階で品質を確認する体制をとれていないことが一番の原因だと思うので、そういった体制をこれから整え、さらに良い商品を作っていきたいなと思います。
〜生産管理〜
前回同様、生産管理についてはまだまだ課題が山積みです。
生産・在庫・販売のバランスも模索中です。
日本でのハイシーズンである春夏を前に、1〜3月の間に生産を進めるのですが、メディアなどで取り上げられると予想以上に需要が高まり、すぐに品薄や在庫切れ状態になってしまいます。
もちろんウガンダへ追加生産依頼しますが、依頼をかけたからといってすぐにたくさん商品が作れるわけではないので、どうしても限界があるんですよね。
彼女たちに過剰な負担をかけるわけにもいきません。
じゃあスタッフをたくさん雇えばいいのかというと、雇った人たちを閑散期に一時的に解雇する…ということはできないので、そう簡単にはスタッフも増やせません。
こうした生産・在庫・販売のバランスの取り方は、まだまだ難しいなと感じますね。
〜作り手とお客さまが繋がることのできる場所作り〜
これは上述の生産管理の部分にも少し関わるかもしれないですが、 バッグのミシン縫いを担当したのは〇〇さん、革の手縫いを担当したのは〇〇さんなどのように、今後はこの商品がだれによって作られたのかというトレーサビリティに関わる情報を、お客様に提供していきたいと考えています。
例えばですけど、「このバッグを作った〇〇さんってどんな人なんだろう?」とお客さんが興味を持ってブランドのウェブサイトを検索した時に、作ったメンバーの写真が出てきたり実際に作っている映像が見られたりすると、単なる『もの』だけじゃなくて、『〇〇さんが作ってくれたもの』として、より愛着が湧くのではないかなと。
『もの』はいずれ無くなってしまうけど、こうして生まれた愛着ってそう簡単になくならないのではないかと思います。
それは作り手側にもいい影響をもたらすと考えています。
お客さまからいただいた感想は伝えるようにしていますが、もっと頑張ろうというモチベーションが生まれたり、今まで以上に張り合いがでてくると思うんですよね。
時空を超えて、お客さまとスタッフが繋がることが、スタッフのモチベーション向上に影響していることが分かったので、その繋がりをより強くできるような取り組みを整えていきたいです。
仲本さん自身の変化とは?
STORES.jp:
ELLEやForbes、TRILLなどのメディアにも世界で活躍している女性として紹介されることが多くなった仲本さんですが、銀行員・NGOを経て企業して3年経った今、自分の中の変化を感じることはありますか?
仲本さん:
「もっと大きなスケールで事業を考えてみよう」と思うようになったのが一番の変化だと思います。
今年はじめてグローバルのビジネスコンテストに出たのですが、交流した世界中の社会起業家のみなさんのビジョンがものすごく壮大だったんです。
「何百万・何千万人の視覚障害者の人にこのプロダクトを届ける」とか、規模がものすごく大きいですよね!
でも、どの方も、話を聞いていると不思議と「この人なら、本当に実現させそう」と感じるくらい、強いパッションを持っていたんです。
それまでの私は、「小さなコミュニティでも、そこにいる人たちが幸せに生活できるのであれば、それでいい」と考えていたのですが、RICCI EVERYDAYとして活動していることって、実はもっと他の地域にも展開でき、もっともっとたくさんの人を巻き込んでいける可能性を持っているのかもしれないなと考えるようになりました。
まさに今、たくさんのテーラーやものづくりの職人がお客様とダイレクトに繋がることのできるプラットフォームを作っていこうと動き出しているところです。
STORES.jp:
NPO法人とも協力して活動されていると伺いました!そういった活動もプラットフォーム作りの1つに?
仲本さん:
そうですね!日本の認定NPO法人テラ・ルネッサンスと協働して、元子ども兵のサポートに関わらせてもらっているのですが、この活動もRICCI EVERYDAYとしての今後のプラットフォーム作りの1つと言えると思います。
NPO法人テラ・ルネッサンスは、元子ども兵に自立支援として基礎的な縫製技術の訓練を行なっています。この訓練を受けた人たちに、RICCI EVERYDAYの商品を作ってもらっています。
訓練では、質の高い商品が作れるようになるために当社の職人が毎月トレーニングに行っています。みんな着実に力をつけてきていますよ。
厳しい現実の中にいた人々が、RICCI EVERYDAYというブランドを通じて、もの作りの世界で活躍できるような環境を作っていきたいですね。
それから、
- スモールスタートを切る
- 粘り強くやってみる
この2つで大抵のことは上手くいくんだなということがわかったのも変化の1つかなと思います。
何か物事に挑戦する時というのは、周りの目を気にしたり、親が…と言っているから、失敗したら責められるかもしれない、となんだかんだ動けないことってよくあると思うんですよね。
でも、失敗って悪いことじゃないと思うんですよ。
失敗という言葉の響きが良くない笑。
失敗から学べることって実はたくさんあって、そこから得たことを元に、試行錯誤を繰り返していけばいいと思います。
ただ、一度に何千万もかけて動き出すのは確かにかなり勇気がいることなので、100万円とか、勉強代と思える範囲内の小さな規模からスタートするといいと思います。
あとは、粘り強くやっていくことですね。
誰か1人でも「絶対にうまくいく!うまくいかせる!」と強く信じる人がいると、意外とどんなことでも前に進められるということに、最近気がつきました。
私の場合、自社の責任を持っているのは自分しかいなかったので、ひたすら「あきらめないぞ」という覚悟を持ってやってきました。
そうすると、万が一トラブルに直面した時も、「プランAがダメならプランBで、それがダメならプランCでいこう!」と自分でもびっくりするくらい、どんどんアイディアが出て行動に移せるんです。
それだけでも少しずつ物事は前進していくし、こうした自分の熱意が伝わって周りからサポートしてもらうこともあります。
今も、何かトラブルに直面したら「また来たか!」「どうやってやっつける?」と、ゲーム感覚で挑戦しています。
それから、こうしてインタビューに回答していると、「あ、自分ってこんなこと大切にしているんだな」と自分が大切にしてる価値観に改めて気がつけること・勉強になることが多いので、インタビューを受けるのも好きになりましたね!
変わらない2人体制
STORES.jp:
日本ではイベントやポップアップを開催し、ウガンダ周辺国へも活動の幅を広げようとしている仲本さんですが、日本にある本社は今もお母様とお二人で経営されているのでしょうか?
仲本さん:
そうですね!母と二人三脚でというところは今もまったく変わっていません。
イベントやポップアップがあれば、母か私が現地に行って設営から接客、販売、撤収作業まで全てこなします。
ただ、専門的な部分はそれぞれの専門分野のプロに任せるようになってきました。
例えば、PR。
今までは自分たちでプレスリリースを出して、様々なメディアさんにお知らせをしていたのですが、現在は知見やネットワークのあるPR専門の方にお願いしています。
イベントやポップアップの接客もそうですね。
お客様との距離のとり方や話しかけるタイミング、おすすめの仕方など、私たちにはできないスキルをもった販売のスペシャリストを派遣してもらうこともあります。
人にはそれぞれ得意なこと・好きなこと・やりたいことがあるので、得意とすることに集中できる環境を整え、得意とすることを活かせる働き方ができればいいのではないかという考えの元、お願いしています。
基本的には母と私の2人体制を取りつつ、適宜、様々な分野のプロフェッショナルに業務委託などの形をとってお願いすることが多いですね。
こうした働き方は、実はウガンダの工房でも同じなんです。
接客が得意な人もいれば、縫製が得意な人、品質管理が得意な人もいる。逆にみんながやりたくない仕事は私が引き受けています。
得意なこと・好きなことには120%の力を出せると信じているので、そういう環境を積極的に提供していきたいと思っています。
RICCI EVERYDAYの世界観をもっと表現したい
STORES.jp:
RICCI EVERYDAYとしてこれからの目標を教えてください。
仲本さん:
先ほどもお話したように、RICCI EVERYDAYのものづくりプラットフォームはこれから動き出す新規事業なので、注力していきたいと思っています。
また今後は、販売サイドの強化も行わなくてはいけません。オンラインショップをはじめ、日本やそれ以外の地域での販売も進めていきたいです。
まずは東京にフラッグシップをオープンすることからですかね!
ブランドの世界観を表現できる場所として直営店舗は一番適していると思うので、日本での一号店を早く構えられるようにしたいと思います。
店舗に来てくださった方が、もっとウガンダを身近に感じてもらうことができるような仕掛けも準備します。
RICCI EVERYDAYの世界観を、いろんな方にジワジワ感じていただけたらいいなと思います。
ショップ情報
編集後記
アフリカンプリントのように明るくてハキハキとインタビューに答えてくださった仲本さん。
そんな仲本さんに頑張るパワーの源を聞いてみると、以外にも『寝ること』とウガンダで飼っている愛犬、『ヒメちゃん』が癒しだと教えてくれました。
「今の活動は何か特別なこと、すごいことをしようとしたわけではなく、ただ自分の好きなことを追いかけていっただけ」と語る仲本さんらしい等身大の答えで、思わずほっこりしました。
また、『失敗することは悪いことじゃない』『誰か1人でも「絶対上手く行く!」と信じて進んでいくと、意外とどんなことも前に進められる』という言葉は、絶対に忘れないと思います。
仲本さんからのこの言葉を胸に、STORES.jpが盛り上がるような企画をどんどん計画していくので、みなさんお楽しみに!
RICCI EVERYDAY 仲本さん、ありがとうございました!
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