「大人に向けたセーラー服」
「大人に向けた学ラン」
誰もが親しみのある題材を独自の視点を加え、その魅力を最大限に引き出した服を提案する
ha | za | ma
実店舗を持たないスタイルを貫き、Twitterを中心にファンを増やし、なんと今やフォロワー数4万人目前。
どのようにしてここまでブランドの知名度を上げてきたのでしょうか。
そして、何より独特の世界観を確立しているこの素敵なお洋服はどのように生まれているのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、ha | za | ma のデザイナーである松井諒祐さんです。
STOREについて
ha | za | ma
(現在は全てsold out)
開設日:2014年5月
(2017SS ha | za | maより)
やりたくないからやる。
STORES編集部(以下S):
人気も、知名度も高いha | za | ma ですが、そもそも松井さんが洋服を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
松井さん:
これは元々服を着るのが好きだったのもありますが、とにかく就職活動から逃げたいというのがメインです。
4年制の大学に通っていたんですが、大学入学の段階で僕の人生設計は普通に就活してどこかから何とか内定を頂いて週休二日を全力で楽しみながら定年まで勤め切り余生をのんびり過ごす、というものでした。
自分がそうだったからというわけではないんですけど、学生の段階でこういう考え方の人は何だかんだ多いんじゃないかなと思います。
周りも大学3年の半ばくらいになると髪を黒く染めて短く切って就活に備えていましたし、”ああ、僕もそろそろだな…”って当たり前のように思っていました。
ただそれでも最終的には逃げたい気持ちが勝っちゃったんですよね。そこで何とか探し出した逃げ道がファッションデザイナーになるというものでした。
「就職しないためにもブランドを立ち上げよう!やりたくないからやってやるぞ!」みたいな気合いでした。
そうは言っても洋服を作ったこともないし何もわからない状態だったので、まず基礎から洋服の勉強をしようと思い大学在学中に文化服装学院の夜間制へ入学しました。
あ、もうこの段階では親にめちゃくちゃ怒られましたし専門の学費は全額自分で払ってます。
念のため言っときます。笑
ha | za | ma を始めたのは専門学校を卒業した翌年からですね。
S:最初から洋服作りを志していたのではなくて、元々は普通の大学生だったんですか!
最初からha | za | maとして洋服を売り始めたんですか?
松井さん:
最初は自分の名前をブランド名にして洋服を売ってました。
ブランドの名前に世界観が入っちゃうと、ずっとその名前に縛られてしまう気がしてわざわざ付けたくなかったんです。
極端な話、ブランド名を「 pa | ja | ma 」とかにしちゃうとパジャマしか作っちゃいけない感があるじゃないですか。
でも自分の名前だと何を作っても言い訳がきくかなって。
結ぶワンピース/2017SS
何にもならないになりたい。
S:どうしてha | za | maになったんですか?
松井さん:
最終的に理由がたくさんありすぎて、もうこれしかないなって思いました。
1つ目は「ハザマ」って漢字だと「間」って書きますよね。
特定の世界に属さないし染まらない、世界自体になりたくないなっていう想いがありました。
何にもならないになりたいというか、色んな世界観に気軽にアクセスできる「間」にいる存在でいたいと思ったんです。
さっきも話しましたが何やっても言い訳がきくなって。
2つ目は人の日常に寄り添う服が作りたいと思っていて、そしたら「人間」って書いたとき文字列で”人”の隣に”間”があるじゃないですか。
S:言われてみると確かに人に寄り添ってます!すごい!
松井さん:
3つ目は生き様という意味も込めています。
ずっと前から他のインタビューでも言ってるんですけど”最高のファッションは生き様”って僕は思っていて、結局どんな良い服を着ても生き方が格好よくないと素敵じゃないし逆に生き方が格好いい人って何着ても素敵なんですよね。
ファッションブランドをやっていてこういう考え方は矛盾してると思うんですけど、格好いい生き方のきっかけに少しでもなれたらなって思います。
ちょっと脱線しましたが”生きる”って”生える”とも読むじゃないですか。
だから生える様でハザマ。
あと最後は、祖母の名字がハザマだったんです。ちなみにその祖母とは誕生日も一緒で。笑
S:ここまで来ると確かにha | za | ma 以外にありえない気がしてきます!
ha | za | ma というブランド名に文字の間に仕切りがありますが、あれは何か意図がありますか。
松井さん:
あれは意図というより感覚ですね。
ただ改めて考えてみると社会に対するha | za | ma ってブランドの在り方をめちゃくちゃ端的に表しているのがあの棒のような気がします。
コスプレとリアルクローズの間「大人に向けたセーラー服」
S:「大人に向けたセーラー服」がメディアでもたくさん取り上げられていますが、どのようにして生まれたんですか?
松井さん:
最初からこういうかわいい系のお洋服を作っていたわけではなくて、初めて発表したのはもっとシンプルなリネンシャツとかだったんです。
ha | za | maとして最初に発表したリネンシャツ
でもシンプルなものやかっこいい系のお洋服ってSNSではなかなか反応が得にくいんですよね。
ただ、だからと言ってそれだけでSNSは自分に向いてないと切り捨ててしまうのも悔しいじゃないですか。何か時代に負けを認めてしまう感じがして、とりあえず一回は勝ちたいなと。笑
それでSNSへの挑戦をテーマに狙って割り切って作ってみたのが「大人に向けたセーラー服」でした。
大人に向けたセーラー服(ha | za | maより)
基本的にSNSではかっこいいものよりかわいいもの、正統派よりサブカル寄りのものが人気なんです。
あと、コスプレが好きな人や変身願望のある人って多いですよね、実際にやってなくても潜在的に願望を持ってる人はめちゃくちゃ多いと思います。
そういった人のニーズに丁度良いバランスで応えられたら良いのでは、というのがありました。
セーラー服って世代を問わず人気だし、もちろん既にたくさん市場に出回っているけどそのコスプレ的な魅力を抵抗のないリアルクローズの範囲内に落とし込めてるお洋服はあまりないなと感じたんです。
ちなみに先シーズンの割烹着ワンピースも同じ切り口のデザインでした。
割烹着ワンピース/2017SS
フォロワー数400人から4万人へ
S:現在4万人到達間近という脅威のフォロワー数ですが、最初からTwitterのフォロワーは多かったんですか?
松井さん:
最初の2~3年のフォロワー数は400人くらいでした。
ただ瀬戸かほさん(女優・モデル)、安藤きをくさん(写真家)という方々と2014年の秋にルック撮影をさせて頂く機会がありまして、この二人との出会いが個人的には転機だったと思います。
見えないものを見ようとして見上げた夜空のシャツワンピース/2017SS
photo 安藤きをくさん/model 瀬戸かほさん
僕的には二人の世界観や雰囲気と ha | za | ma の相性が抜群で、あとは大人に向けたセーラー服の人気もあいまって半年で徐々に6000人くらいまで増えた気がします。
まつい りょうすけさん (@MatsuiRyosuke) | Twitter
S:そんなに一気に!瀬戸かほさんにはご自分で依頼したんですか?
松井さん:
最初は普通に1人のファンとして、瀬戸かほさんのツイートにリプライ(Twitter上のコメント機能)を送ったのがきっかけです。
そしたらかほさんからDMを頂きまして。
こんな素敵で有名な方が僕の服を着てくれるんだと…今だから言いますけど何かよくわからない高揚感でめちゃくちゃテンション上がって絶対良い撮影にしようと気合い入れてたのを覚えてます。笑
その後はTwitter上でシーズンごとの宣伝を兼ねてプレゼント企画を始めたら、1シーズンで1万人近くフォロワーさんが増えていくようになりました。
未知数のシャツワンピース/2016SS
S:Twitter以外のSNSでも集客は行っていますか?
松井さん:
Twitterは拡散機能が強いので、やっぱりメインになってます。
あとはInstagramもやっていますね。
TwitterとInstagramで違うのはTwitterはあくまで個人名でつぶやきたいことを何でも言ってるのに対して、Instagramはha | za | ma というブランドとしてやっていることです。
ファッションブランドってどうしても垣根が高く見られがちだなっていうのを前からずっと感じていて…何かファッションデザイナーって言われるとものすごく高尚というか取っつきにくそうな感じするじゃないですか。
でも少なくとも僕は全くそんな感じじゃないんですよね.本当に。
だからTwitterではありのままの姿で、少しでも親近感が沸いてお洋服にも興味を持って貰えたらなと思ってやってます。
もちろん単純にha | za | ma の服が好きな人にとって僕の人間性が見えてしまうのは逆効果な場合もあるんですけどね。そういう人にはinstagramで見て貰えたらなと。笑
ha | za | ma (@ha_za_ma) • Instagram photos and videos
S:新しい洋服のアイデアは他のブランドや写真集などを見て思いつくんですか?
松井さん:
普段からあらゆる物や経験をデザインのとっかかりにできないか意識して考えてます。
あとは自分の中だけでずっと考えていると発想にどうしても偏りが出てきてしまったりするので、客観的に世の中ではどんな服が求められてるのだろうと色んな人に聞いたりしますね。
例えば先シーズンの「スタジャンとジャケットの二重装」はやすだちひろさん(デザイナー)という方との対談で最後に「次何が流行ると思う?」って軽く聞いたら「スポーティー」って言ってたので。
案外それまでの自分に“スポーティー”っていう要素はなかったんですよね。
今まで自分になかった要素を自分なりにどう落とし込んで解釈するかという流れでのデザインは多い気がします。
Twitterでもどんなお洋服が欲しいかとかたまに聞いたりしてますね。
スタジャンとジャケットの二重装/2017SS
S:デザインを考える時はどんなふうに考えているんでしょう?
ある時インスピレーションが降りてくる!って感じなのか、もっとうんうん考えながら生みの苦しみみたいなものがあるんでしょうか?
松井さん:
割と一日中考えちゃいますね。
新しいデザインが思いつかないっていうのはつまりこの先の商品がないって事ですから、不安すぎてあらゆる仕事すっぽかしてずっと考えてたりします。
これは社会人としてはものすごく反省点なんですけどね。
1度デザインを考え出すとうまく自分の中でオチを付けるまで気が収まらなくて他の業務に手が回らないんです。
いや、本当にこれはどう考えてもダメな例ですが…
だから家の中でデザイン帳眺めてぼーっとしたりウロウロしてたら1日が終わっててものすごく自己嫌悪に陥るとかよくあります。
学校のテストとかでもそうですけど難しいのは後に回してできる問題からやっていくというのが大切なんでしょうね。僕はできないんですけど。
S:先日行われた展示会も大盛況でしたが、集客も含め、どのように開催しているのですか?
松井さん:
展示会場を借りて、服を送って、前日か当日にセッティングするという形で基本的には自分1人で行っています。
全て我流で毎回反省点だらけです。
でも今回は6都市で1200人程の方にご来場頂きました。
客層は基本的に女性と男性が7:3くらいなんですが、今回は更に女性の割合が多かったですね。
個人的に今シーズンは可愛い系のお洋服が多かったからかなと思ってます。
来シーズンは結構かっこいいに寄せた服作りをしてるので男性の方にもたくさん来てもらえたら嬉しいです。
先日行われた展示会の様子
S:展示会でもSTORES上でも注文があり、膨大な量だと思いますが、どのように管理されているんですか?
松井さん:
展示会では用意した注文書に必要事項を記入してもらい、家に帰ってからそれをエクセルに打ち込んでデータ化するという形を取ってます。
受注・生産数の管理は展示会とSTORESの注文数を単純に足し算してっていう形でめちゃくちゃアナログですね。
生産の際はその数より少しだけ数にゆとりを持って作ります。
デザイナー>経営者
S:シーズンごとのコレクションは再販売しないと公言していますが、理由はありますか?
松井さん:
まず再販を絶対しないということはないです。笑
それっぽい公言をしていることはありますが、大人の事情でもちろんすることはあります。
ただシーズンものとして販売していたのに、また違うシーズンで同じ物を再販したらその時に買って頂いたお客様に申し訳ないなという気持ちは少なからずあります。
でも最近になってブランドを知ってくれた方が昔の商品を見て「もっと早く ha | za | ma に出会えていたら…」と言って下さるのを聞くとそれも心揺さぶられるんですよね。
だから再販に関してはいつも葛藤しています。
あとは単純に以前の服を再度売るというのはつくり手としては怠慢だと思ってます。
なので以前の商品と同じニュアンスは引き継ぎつつも何かしら挑戦はしたいというか、変えたいというのはありますね。
ここら辺は経営者ではなく、デザイナーでいたいという気持ちが強いです。
お仕事なのでもちろん売れる事も大切ですが、それ以上にちゃんとつくり手としての実力を上げていけたらなと思います。
なのでもしいつか経営者とデザイナーどちらかの立場を譲らなければいけない時が来たら、迷わず経営者を譲りますね。
S:ずっとデザイナーでありたいという強い気持ちがあるんですね。
STORESを始めたきっかけについて教えていただけますか?
松井さん:
もともとPC関係が得意じゃなかったので、初めて使ったネットショップのサービスも全然使いこなせてなかったんですよね。
ただha | za | ma をやり始めた2014年くらいから、ちょうどSTORESやBASEという手軽なWEBショップサービスというのを聞くようになりました。
”2分で作れるネットショップ”というキャッチコピーは印象的でしたね。
2つの中から選んだのはほぼ直感だったんですけど、いずれは海外販売をしたいと思っていたので当時から海外対応のあったSTORESを選びました。
いや、本当に使いやすいですよね。
最初から何もしなくてもいい感じのサイトになるので感動しました。
S:そう言っていただけると本当に嬉しいです!
受注生産で販売されていると思いますが、注文から発送までの流れはどのように行っていますか?
松井さん:
基本的にはSTORESの販売の流れに則ってやってますね。
ただ注文が入ってからの生産なので配送時期だけは遅めに明記するようにしています。
以前は納品期日を早めに伝えてしまったりして期限に間に合わずお客様にご迷惑を掛けてしまったこともあったので、本当に余裕を持って納期を提示させて頂くようにしています。
ha | za | ma の服は他では売ってないのでお願いします待ってくださいって心持ちです。
S:僭越ですが、STORESの魅力をお聞かせ願えますか?
松井さん:
先ほどもお伝えしたようにやはり2分で開設できる手軽さとそれに全く見合ないクオリティの高さですよね。
僕みたいなアナログ人間には本当に神様のようなサービスだと思います。
あとはこれも既出ですがちゃっかり海外対応しているところですね。
僕はまだ全く活かせてないですけど、言葉の響きだけでものすごく可能性を感じています。
S:海外も狙っていきましょう!
反対に、STORESで改善してほしい箇所はありますか?
クレジットカードで分割払いができるようになって欲しいです。
扱っている商品が割と高価格帯なので、買いたいけど一括じゃ買えないというお客様もいます。
3回から6回くらいの支払い回数を、お客様に選んでもらえるようになるとすごく助かります。
今は、個別にお問い合わせがあった場合は、銀行振込で分割で払ってもらって対応しています。
S:分割払いは多くのオーナー様からご要望を頂くので、今後しっかりと検討していきたいと思います。
(追記:現在PayPal決済に関してはPayPalアカウントから分割払いに変更することも可能です。)
最後に、今後の展望を教えて下さい!
松井さん:
個人的なことですが、ha | za | ma はSNS発のブランドなので、何か賞を取ってコレクションに出てという経歴を辿っているいわゆる王道のブランドからしたら、軽薄に見られてしまう節があると思ってます。
実際、SNS上は物の良し悪しよりマーケティング力の方が先行しがちなので、本当はあまり良くない物でも売れてしまったりするのが現状です。
これは服に限らずイラストでも写真でも何でもそうなのですが、技術力よりキャッチーな発信力が求められてしまう世界なので文化の形骸化が起こりがちだと思うんです。
僕自身何でこれが売れるんだろう拡散されるんだろう評価されるんだろうと疑問に思うことは正直たまにあります。もちろん思われていることもあると思います。
でもそれがSNSの性質で一つの文化の中心であることはちゃんと認めないといけないと思っていて、だからこそ影響力を持てるようになっても作品の質や数には妥協せず常に上を目指していきたいです。
STORES スタッフ後記
ha | za | ma というブランドにここまでファンが増えたのは、お洋服のデザインや世界観が素敵なのはもちろんですが、お話を実際に伺って、
松井さん自身の生き様、「人に寄り添う服を作る」という、ブランドや洋服に対する思いに惹かれて、松井さん自身のファンになった人もたくさんいらっしゃるのではと思いました。
ファッションブランドというだけではなく、その服がどういう気持ちで作られたのか、その後ろに作り手である松井さんの想いや情熱が見えることも、ha | za | ma の魅力であり、たくさんの方に支持されている理由な気がします。
ご協力ありがとうございました。
ha | za | ma の次の展示会、素敵な洋服と松井さんに会いに、皆さんも是非訪れてみてはいかかでしょうか。
また、4月半ばに2週間ほどの小規模なWEB受注を行う予定だそうです!皆様、お見逃しなく!
ストア情報
ストア名:ha | za | ma
Twitter:@MatsuiRyosuke
Instagram:@ha_za_ma