個人でジムを開業するには、基本的な知識と流れを把握する必要があります。また用意したい資金の内訳や調達方法も、事前に覚えておくと安心です。
オープンに向けたポイントを確認しながら、ジム開業の計画を準備しましょう。経営のポイントも紹介します。
ジムの開業前に知っておきたい知識
近年は大手のフィットネスジム以外にも、個人経営ジムが登場しています。ジムの開業を目指すにあたっては、まず個人事業でも十分な需要が見込めるのか・開業に特別な資格は必要なのかを知っておきましょう。
個人開業でも需要はある?
ジムといえば大掛かりな設備のある大手のスポーツジムや、フィットネスジムを想像する人が多いのではないでしょうか?
確かに多くの人が同時に利用できる大規模なジムは全国に多くあります。しかし近年のジムは形態が多様化しています。
たとえ個人事業で大掛かりな設備を用意できなくても、工夫次第で開業できるようになってきました。
背景として挙げられるのは、ジムを利用する人々のニーズが変わっている流れです。ジムにも個々に合った丁寧なサポートが求められています。
大手ジムのように画一化されたプログラムよりも、トレーナーが一人ひとりに向けた独自のトレーニングをしてくれるジムの方が時代のニーズにマッチしてきているのです。
もちろん提供する設備やトレーニング・集客方法を工夫する必要はありますが、個人開業でも十分な需要が見込める業種といえるでしょう。
開業に必須資格はなし
ジムの開業には特別な資格は必要なく、誰でもジムの『トレーナー』を名乗ることは可能です。
しかしメジャーなスポーツ選手だった人でもない限り、一般人がトレーナーとしてジムを開業しても短期間で集客に結びつけるのは難しいでしょう。
トレーナーの業界で広く認知されている資格を取得すれば、トレーナーとしての能力を客観的に証明できるようになります。
例えば世界中で多くのパーソナルトレーナーが取得している『NSCA-CPT』や『NESTA-PFT』は知名度の高い資格です。
日本国内でも『JATI-ATI』をはじめ、パーソナルトレーナーに関わる資格があります。自分の開業したいジムの特性に合わせて、取得も検討しましょう。
NSCA認定資格とは
NESTA PFT|NESTA JAPAN ネスタ
JATI-日本トレーニング指導者協会
ジム開業までの流れ
ジムのコンセプトを決めずに『何となく』開業してしまうケースも少なくありませんが、方向性の決定は重要です。コンセプトが決まってから、実現できるような物件とマシンを選定します。
①ジムのコンセプトを決める
ジムのコンセプトは事業の方向性です。具体的にいえば『主なお客様』『ジムを開くエリア』『提供するサービス』『競合との差別化ポイント』など、どのようなジムを作るかをまとめた概念です。
出店したいエリアにはどういったニーズを持った顧客がいるのかを調査し、サービス内容を決める必要があります。競合のサービスもよく調べ、自分のジムが出せる『他にはない強み』を考えるのです。
パーソナルトレーニングのジムを運営では個人を顧客として迎えるため、ターゲットの属性や悩みを細かく設定しましょう。
②店舗となる物件を探す
コンセプトを決めたら、それに合致する店舗物件を探しましょう。トレーニングをするのに十分な空間を確保できるのは当然として、できるだけ多くの人が通いやすい物件を選ぶ必要があります。
駅に近く交通の便がよい物件は家賃が高くなってしまいます。しかし交通に不便さを感じない程度の郊外なら、意外に安く借りられる物件もあります。
トレーニングにあたって声を出したり、マシンから大きな音が出たりする場合もあるので、物件の防音性も大事です。周囲の賃料の相場と立地を考えて、ジムに合った物件を根気強く探してみましょう。
③コンセプトに即したマシンを選ぶ
物件を決めたら、設定したジムのコンセプトに合ったトレーニングマシンを選びましょう。ベンチやバーベルなど、基本的なトレーニング器具だけをそろえるだけなら50万~100万円程度の初期投資で抑えることも可能です。
ただし安価すぎるマシンでは耐久性の面で劣る可能性があるため、コストとスペックのバランスを取る必要があります。
ジムのコンセプトによっては、トレーニングマシンなしで開業もできます。徹底した自重トレーニングをするジムなら、トレーニングマシンは不要でしょう。ダンベルだけをそろえて開業している人も少なくありません。
トレーナーとして一人ひとりの利用者に合った最適なサポートができれば、たとえトレーニングマシンがなくても相応のニーズはあるはずです。
ジムを開業するときに必要な資金
ジムを開業する際の資金は、大きく『初期費用』と『運転資金』に分けられます。ジムの規模やコンセプトによって必要な資金は変わってくるので、事前にいくらかかるのか概算しておきましょう。
初期費用
ジムの開業に必要な初期費用には、物件の取得費や内装工事費・トレーニング機材の購入費・販促費などが含まれます。
賃貸物件でジムを始める場合は、敷金や礼金なども考慮しなければいけません。サロンをはじめとした美容業と違って、部屋の内装を大きく変える必要はないでしょう。そのままの内装で問題なければ工事費はかかりません。
トレーニングに必要なマシンは、ジムのコンセプトによって変わってきます。ベンチやパワーラック・ウエイトツリーなどの基本的な機器を一通りそろえるなら、100万円程度の投資は見込んでおきましょう。
Webサイトやチラシを使って宣伝するための費用も必要です。使う媒体によって費用に大きな開きが出るため、予算とターゲットの属性を考えて宣伝方法を選びます。
運転資金や予備資金
ジムの運営には毎月の運転資金が必要です。家賃やテナント代・光熱費・水道費は必ず発生します。毎月決まった額で広告を出している場合は、運転資金として費用に計上しなければいけません。
自分以外にトレーナーを雇用する場合は、毎月の人件費も負担する必要があります。資格を取得したトレーナーを雇うならば、毎月20万円以上の人件費はかかってくるはずです。
またジムの開業当初は、なかなか利益を出せない可能性が高いでしょう。半年程度は売上がほとんどなかったとしても、事業を継続できるだけの予備資金が必要です。
ジムの運転資金は小規模でも毎月60万~80万円程度はかかります。半年分の予備資金が必要と考えれば、当座の生活費も含めて500万円程度の資金は使えるようにしておく必要があるでしょう。
自己資金が足りない場合は?
ジムの経営に限らず、事業の開業資金は全て自己資金を使うのが理想です。しかし数百万円かかる資金を、全額自己資金で賄うのは難しい人も多いでしょう。解決策は2通りあります。
一つは完全に個人での開業ではなく、大手のパーソナルジムと『フランチャイズ契約』を結ぶことです。ジムのオープンにかかる費用を援助してもらえたり、ネームバリューを使って集客できたりというメリットがあります。
ただし経営方針やトレーニングメニューは、ある程度大手ジムにならわなければなりません。
二つ目に挙げられるのは、創業する人に融資をしてくれる機関を利用する方法です。借金を抱えることにはなりますが、自分1人でこだわり抜いたジムを開きたいなら大きな助けとなるでしょう。
まず選択肢に入るのは、『日本政策金融公庫』です。新規事業では事業計画を立てて審査を受け、通ったら融資を受けられます。
参考:創業時支援|日本政策金融公庫
安定した経営を行うポイント
大手のジムと比べて、個人経営のジムは資金力と集客力ではどうしても劣ってしまいます。小規模なジムの経営を長期的に安定させるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
立地は特に重視する
パーソナルジムの場合、立地は非常に重要です。大手のジムとは違い大人数にリーズナブルな価格でサービスを提供するのは難しいため、一人ひとりの顧客に対して高い単価を設定する必要があります。
高所得者層が通いやすい地域でジムを開業するのが理想です。自宅や生活圏から足を運びやすい立地で、できるだけ家賃の安い物件を探しましょう。
頻繁に通ってもらえるかどうかが、ジムの売上を左右します。地方であれば車で通勤している人がほとんどなので、駐車場は欠かせません。
ただ駅に近いほど交通の便はよくなりますが、いわゆる『駅チカ物件』は賃料が高くなりがちです。理想のエリアと予算のバランスを見て決めましょう。
カットできる初期費用は減らす
ジムの立地は重要なポイントのため、単純に安さだけでは決められません。物件以外の初期費用で削減できる部分があれば、できるだけコストカットを心掛けましょう。
可能な限り初期費用を抑えれば、会員数が少なくてもジムの経営を続けられるようになります。特に創業初期は集客に困る時期が続くでしょう。削減できるコストは徹底的する意識が、将来的に安定した経営につながります。
マシンや備品に関しても、最初から全てをそろえようとすると初期費用がかさみます。スモールスタートで始めて軌道に乗ってきてから、徐々に必要なものを用意していくのも戦略です。
まず準備する設備や備品は、ジムのコンセプトによって変わります。重要度の高いものからそろえ、ミニマムな初期投資を目指しましょう。
リピーターを増やす施策も重要
ジムの経営に限らず、ビジネスで利益の中心となるのは『リピーター』です。リピーターをいかに増やすかが、長期的にジムを経営するためのカギとなります。
お客様のニーズをよく調査した上で、何度も通いたくなるような施策を考えましょう。ジムのリピーターを増やすには、顧客がジムに通う『理由』を理解する必要があります。
ダイエットのために通う人がターゲットなら、アピールしたいのは減量効果です。例えば付加サービスとしてヘルシーな料理のレシピを提供すると、ファンを増やせる可能性が高まります。
リピーターを増やしたいなら、お客様の利便性にも目を向けなければなりません。『STORES 決済』のようにキャッシュレスに対応できるシステムを導入すると、会計の手間が減りジムに対する満足度向上が期待できます。
STORES 決済(旧:Coiney) |お店のキャッシュレスをかんたんに
顧客が集まるジムを目指すには
人が集まるジムを目指すなら、情報を届けたい層にしっかりアプローチする方法を考えましょう。特にターゲットの掘り下げと、効果的な宣伝媒体の選定が大切です。
ターゲットはできるだけ掘り下げて決める
自分の強みを生かせるターゲットを設定すれば、安定した集客につなげられます。
例えば40~50代の男性向けのトレーニングをする場合と、20代の女性向けのトレーニング環境を提供する場合とでは、プログラムや指導法が変わってくるでしょう。
トレーナーとしての特性を生かせるターゲット属性を選択するのが、ジムのファンを増やすコツです。
コンセプト設計で決めたターゲット層が、どのような価値観を持っているのかも確認します。しっかりとジムに通う背景まで深掘りできれば、集客につながる戦略を立てやすくなるでしょう。
宣伝にWeb媒体やSNSを活用する
近年はインターネットが幅広い年代に浸透しており、業界を問わずWebやSNSを使った集客が欠かせません。
ジムの集客方法にはチラシやポスターといったオフラインの手段もありますが、近年はオンラインでの集客が主流になっています。
検索エンジンの広告やFacebook・Instagramに表示されるSNS広告は、集客のために検討したい手段です。掲載には費用がかかりますが、効率的に集客ができます。
ターゲットが日常的に使っているSNSにアカウントを作成し、ジムの情報を発信するのも一つの手です。広告と違って費用をかけずに、ジムの強みや魅力を届けられます。
万全な準備でジム開業に挑もう
近年はジムを利用する人のニーズが変わってきており、個人経営のジムでも需要を見込めます。まずはどのようなジムにするかを決め、コンセプトに合う物件やマシンを検討するのが基本の流れです。
オープンまでには資金調達や集客の施策など、考えるべき事柄が多くあります。現時点で足りないスキルや知識があるなら、しっかりと補完してから開業に挑まなければなりません。
『誰に』『どのようなサービスを』提供するのかを具体的に決め、お客様を満足させられるようなジムを目指して準備を進めましょう。