資格を取得すればすぐに開業できる行政書士は、安定した職業として人気があります。一方で、独立後に安定した収益を得るのが難しいという現実も。
独立にあたっては、開業の注意点や必要な準備、独立にかかる費用も知っておきましょう。行政書士としての独立開業を成功させるコツも解説します。
行政書士として独立するメリットと注意点
行政書士は主に、官公署へ提出する書類を作る仕事です。行政書士でなければできない業務が多いため、安定した収入が見込める職業として人気があります。個人開業の行政書士には、どのようなメリットや注意点があるのでしょうか?
自分の裁量で仕事ができる
実務経験が必要な税理士や会計士とは違い、行政書士は資格を取得してすぐに開業できる士業です。資格を取った後に、必ずしも行政書士事務所に所属する必要はありません。
個人で事務所を開業すれば、勤務時間や請け負う仕事の種類など、自分の裁量で決められる範囲が大きく広がります。
自分の生活スタイルに合わせた働き方も、仕事の取り方や進め方を工夫すれば可能です。子育てや介護をしながら行政書士として活躍している人や、平日は会社員として働き、週末のみ行政書士の活動をしている人もいるようです。
定年を考える必要がない
行政書士をはじめ、弁護士や司法書士・税理士などの士業には定年がありません。資格を持っていて問題なく業務をこなせれば、何歳になっても活動できます。
会社員をリタイアした後に、行政書士として働き始める人もいます。年を重ねた人ほど社会人としての経験が多く、顧客から信頼されやすいという側面もあるでしょう。
士業のように定年がない職種は、珍しいといえます。自分のスキル次第で年齢に左右されず働けるのは、行政書士として独立する魅力です。
安定するまでの苦労に注意が必要
行政書士の独立開業にはさまざまなメリットがありますが、収入が安定するまで苦労する可能性が高いと考えましょう。
『儲かりそうだから』といった安易な理由で資格を取って開業しても、なかなか仕事を請けられず収入は安定しないでしょう。資格を持っているだけで仕事が舞い込んでくるケースはまれです。
開業してから軌道に乗るまでは、地道に営業・集客をして案件を獲得していく必要があります。依頼の実績を積んでいくごとに、信頼できる行政書士として認められていくでしょう。
独立開業の場合は基本的に、集客をはじめ事業に必要な活動は1人でしなければなりません。事業主としての自覚と覚悟を持って、一つひとつ実績を積み上げていく努力が必要です。
年収はどれぐらい?
行政書士の年収は、担当している案件や働き方によって大きく変わってきます。平均すると600万円程度とはいわれていますが、あくまで収入が低い人と高い人を全て含めた平均値と考えましょう。
新人の行政書士で案件をほとんど得られないと、年収200万円に満たないことも珍しくないようです。一方、日々多くの依頼が舞い込む行政書士なら、年収1,000万円を超える場合もあります。
行政書士として請けられる仕事の範囲はある程度は決まっているため、個人の集客力や知名度・信頼性によって年収に差が出るといえるでしょう。
行政書士の独立に必要な準備
行政書士として独立開業するには、行政書士資格を取る以外に何をすればよいのでしょうか?個人で開業する場合に必要な準備を見ていきましょう。
①行政書士会に登録する
行政書士の資格を取得したら、都道府県単位で設置されている行政書士会に名前を登録する必要があります。行政書士会と日本行政書士会連合会※に登録していなければ、仕事を請けられません。
資格を取った後に行政書士として活動するつもりがないなら登録しなくても構いませんが、開業志望なら必須です。申請のための書類を作成する時間を考えると、資格を取った後、早めに登録の準備を始めた方がよいでしょう。
登録料に30万円ほどの費用がかかるため、開業の予算に組み込んでおきましょう。登録した後には年会費も発生します。
※日本行政書士連合会には、行政書士会を通じて登録
参考:行政書士法 第1条の3 4項 2号|e-Gov法令検索
②事務所にする物件を決める
行政書士として開業するには、事務所を構えなければならないと法律で定められています。自宅の1室を事務所にすることも可能ですが、職務を問題なく遂行できて顧客の『守秘義務』を守れる場所であることが必須条件です。
行政書士会の登録に必要な書類を出した後、場合によってはエリアの支部から事務所調査が入ります。すぐに開業したいなら、資格を取った段階で事務所にする物件を探した方がよいでしょう。
行政書士として活動できる条件を満たしているかチェックされ、問題がなければ名簿に登録されるという流れです。
③開業届を提出する
独立開業の行政書士は、個人事業主です。個人が事業を始めるときは、必ず地域を管轄している税務署に開業届を出しておく必要があります。
開業届を出さずに事業を営んでいる人もいますが、罰則こそないものの提出は義務です。開業後1ヶ月以内に提出できるよう、忘れずスケジュールに入れておきましょう。
開業届を出すと、確定申告で税制上の優遇措置を受けられる『青色申告』の申請もできるようになります。所得から一定額が控除される特別控除や赤字の繰越などメリットが多いので、『青色申告承認申請書』も一緒に提出するとよいでしょう。
開業届や青色申告承認申請の用紙は、税務署の窓口か国税庁のホームページで入手できます。
参考:
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続
[手続名]所得税の青色申告承認申請手続
独立にかかる費用の種類
行政書士として独立開業するためには、以下の費用がかかります。開業当初はなかなか売上につながらない可能性があるので、できるだけ初期費用を抑える工夫をすることが大事です。
①行政書士会の登録費用
各都道府県の行政書士会(日本行政書士会連合会)に登録するには、最初にまとまった金額が必要になります。内訳は次の通りです。
- 行政書士会の入会金:約20万円
- 新規登録手数料:2万5000円
- 行政書士会の会費(3カ月分の前払い):約2万円
- 登録免許税:3万円(収入印紙で用意)
これらの費用を、登録時にまとめて用意する必要があります。入会金や会費・支払い方法は都道府県によって若干変わるため、事前に都道府県ごとの情報をチェックしておきましょう。
②事務所や備品にかかる費用
事務所を借りる場合は、物件の取得費用を負担する必要があります。テナントを借りるのが予算の関係で難しいなら、共同事務所の利用やシェアオフィスなども検討しましょう。月々1~2万円で利用できるところもあります。
ただ、顧客の情報を守れるスペースがない共同事務所・シェアオフィスだと、行政書士会の事務所調査で許可が下りない場合があります。個室のあるオフィスを選ぶのが無難です。
個室のあるシェアオフィスは賃料が高めではあるものの、初期費用が数百万円かかるテナントを借りるよりはコストを抑えて開業できるでしょう。毎月事務所にかかる固定費を払うのが難しそうなら、自宅を事務所にするのも一つの手です。
パソコンとプリンター・シュレッダーをはじめとした備品の購入費も、開業時にかかる費用の一つです。自分の事務所に何が必要なのかを考えて、予算計画を立てましょう。
独立を成功させるポイント
行政書士の資格を取得するだけで、すぐに収入が得られるわけではありません。日本行政書士会連合会によると、2020年3月現在、全国に約5万人の行政書士がいるため、積極的に集客を行わなければ案件を得るのは難しいでしょう。
独立開業した後に安定した収入を得るには、どのような行動が必要なのでしょうか?
特定分野のスペシャリストになる
独立したばかりの頃は売上が欲しく、行政書士としてできる仕事なら、どのような仕事でも請けたいと思う人が多いはずです。
確かに案件をえり好みする必要はありませんが、できるだけ特定分野のスペシャリストを目指した方が顧客からの信頼を得やすくなります。安定した案件の獲得につながる可能性が高いでしょう。
行政書士の作成できる文書は多岐にわたります。同じ地域で活動している行政書士の専門分野も確認しながら、できる限りライバルと差別化できるジャンルを選ぶのがポイントです。
独立当初は幅広い案件を請けるとしても、徐々に自分の経験や強みを生かせる分野に絞り込んでいくとよいでしょう。
営業・集客のスキルを磨く
行政書士として独立開業しても、顧客がいなければ売上は発生しません。他の業界でもいえることですが、分野だけでなく営業や集客のスキルも大切です。
営業の手腕は経験や個人の得意不得意に左右されますが、集客の手段を工夫すればある程度以上の成果は見込めます。インターネット広告やSNSも積極的に活用して、自分の事務所を認知してもらいましょう。
ターゲットとしている顧客のニーズを押さえた上で、どのように集客すれば安定して案件が取れるかを考えるのがコツです。
ターゲット層がインターネットを使わない人なら、地元のフリーペーパーや他の士業への営業の方が効果的というケースもあります。
事前準備を万端にして独立しよう
行政書士は資格を取得すれば、組織で実務経験を積まなくても開業できる士業です。独立を考えているなら、行政書士会への登録費用をはじめとしたコストも考え、準備を進めましょう。
事務所とする物件や備品にも費用がかかるため、独立を思い立った段階で十分な資金を貯め始めると安心です。
行政書士の資格を持つ人はかなり多いので、自ら積極的に動かなければ案件を得ることはできません。営業力を磨くとともに、ターゲットに独自の強みや得意分野を効果的にアピールできる方法を考えましょう。