不動産の仲介業を始めるにあたっては、資格の取得から資金調達・物件や備品の準備・手続きまで、多くの準備が欠かせません。また、長期的な売上を見込める事業に育てるには、集客や顧客満足度の向上も必要です。開業の方法を把握して準備を進めましょう。
本記事では、不動産開業における知識や、開業準備・手続き、必要な資金について解説します。売上アップのコツもご紹介しますので、参考にしてみてください。
- 不動産開業の基礎知識
- 不動産業で独立した場合の収入
- 不動産業を開業する準備
- 不動産仲介業の開業の手続き
- 不動産開業に必要な資金
- 開業前から意識したい売上アップのコツ
- 必要な知識を身に付けて不動産開業の準備を
不動産開業の基礎知識
不動産関係の事業を始めたいと考えているなら、まず必要な資格と不動産業の種類を押さえておきましょう。
不動産取引は他の商品やサービスを売る事業と比べて、法律的な知識が求められます。事前に必要な資格を取得しておかなければなりません。
宅建士資格を持っていれば独立がスムーズ
不動産仲介業をはじめ不動産の取引に関する事業を営むには、『宅地建物取引士(宅建士)』の資格を得た上で『宅地建物取引業免許』の取得も必要です。
宅建士は高額な不動産取引を安全に行うために、必要な専門知識を証明する国家資格として用意されています。顧客が不当な不動産契約を結ばないよう、必要な事項を説明するのが宅建士本来の仕事です。
不動産仲介業で独立したい人は、宅建士の資格を持っていればスムーズに計画が進みます。宅建士の資格は一度取得すれば終わりではなく、5年に一度講習を受けて資格の更新手続きをしなければなりません。
不動産業の種類
不動産業といえば多くの人が、不動産の売買や賃貸の仲介業を思い浮かべるでしょう。『売買仲介業』は不動産の売り出し情報を元に、購入を検討している人に物件を紹介し仲介手数料をもらう事業です。
一方『賃貸仲介業』は賃貸物件を顧客に紹介し、手数料を報酬として得ます。不動産の売買と賃貸、いずれの仲介業も営んでいる不動産業者が多くあります。
不動産業は売買や賃貸の仲介だけではなく、次のような形態もあります。
- 賃貸管理業:不動産物件の管理を営む事業。家賃の集金や駐車場の管理など、賃貸物件を運用するために必要な業務を担当する。
- 不動産デベロッパー:不動産開発業。市街やリゾート地などに建設する不動産の企画や土地の開発を行う。
不動産の運用法を説明したり投資相談に乗ったりするコンサルティング業をはじめ、バリエーションが豊富です。
不動産業で独立した場合の収入
不動産業で独立すると、収入はどの程度になるのでしょうか? 形態によって収入額は大きく変わってきます。中でも単価の高い仲介業を軸に、独立開業で見込める利益について確認していきましょう。
仲介業は客単価が高いビジネス
不動産仲介の仕事は不動産の売り手と買い手、または貸主と借主を結び付けることです。大きな拠点を構えなくても、顧客を仲介できるスキルがあれば営めるでしょう。
売買仲介は1件につき動く金額が大きいのが特徴です。2,000万円の不動産を仲介して宅地建物取引業者の報酬上限で仲介料を得た場合、1件の仲介だけで66万円(税抜)の報酬を得られます。
賃貸仲介の場合は上限が賃料の1カ月分が、仲介手数料の上限です。ただ売買よりも仲介件数を増やせるため、スキルが高ければ相応の収入を見込めるでしょう。
売上が安定するまでには時間がかかる
不動産の仲介業は客単価が高く、うまく仲介できれば高額の報酬を得られる事業です。ただし開業から売上が安定するまでには、時間がかかるでしょう。
特に動く金額が大きい不動産売買仲介では、売り手も買い手も慎重になります。十分な仲介実績のある企業と設立したばかりの企業とでは、前者の方が仲介を頼まれやすいのは明白です。
開業して間もないうちは仲介を依頼する顧客がおらず、なかなか黒字経営にならないケースが珍しくありません。
大手の仲介業者や同規模のライバルに打ち勝つには、自社の問題点と競合をしっかりと分析した上で独自の強みを顧客にアピールしていく必要があります。
開業当初から創意工夫を重ねている事業主とそうではない人とでは、売上の差が大きく開くでしょう。
不動産業を開業する準備
不動産業を開業するためには事務所となるテナントを探し、必要な備品をそろえなければなりません。
不動産業では事務所の開設が必要と法律で決まっています。業務で使う設備や備品の中にも、法律に準拠するために必要なものがある点に注意しましょう。
事務所となるテナントを探す
不動産業者は取り扱う金額が他の業種に比べて大きく、さまざまな顧客の個人情報を扱わなければいけません。事務所とするには、セキュリティが強固なビルの店舗用テナントが安全です。
他の業種では開業資金を抑えるために、レンタルオフィスやコワーキングスペースを事務所として登録する事業者が少なくありません。
しかし不動産業の運営に必要な『宅地建物取引業免許』には、継続的に業務を行える施設を事務所とすることが要件として定められています。
レンタルスペースやコワーキングスペースを事務所として利用するのは、基本的に難しいと考えた方がよいでしょう。
また不動産業者の事務所は来客が多いため、一般的なアパートやマンションなどの賃貸物件を事務所として借りたくても嫌がられる傾向にあります。初期費用はかかったとしても、ビルの店舗用テナントがおすすめです。
備品をそろえる
事務所にするテナントを決めたら、必要な備品をそろえましょう。開業する不動産業種によって用意するべきものは変わってきますが、共通して次の備品は必要になります。
- パソコンやプリンター
- 電話やFAX
- 机と椅子
- 印鑑や筆記用具
- 看板や表札
不動産業の事務所には不動産業者であることを示す看板や表札の設置に加えて、『宅地建物取引業者票』を事務所内の見やすい場所に掲げる必要があります。
業者が受け取る『報酬額表』も掲示しなければいけません。事務所にない場合、違法となってしまうので注意しましょう。
参考:宅地建物取引業法 第46条第4項・第50条第1項|e-Gov法令検索
不動産仲介業の開業の手続き
不動産仲介業を開業するにあたっては、具体的にどのような手続きが必要になるのでしょうか?保証協会への加入から法人の設立、免許取得まで順を追って見ていきましょう。
保証協会に加入する
不動産業を営む場合、本来は法務局に『営業保証金』と呼ばれる供託金を納める必要があります。しかし1,000万円と高額なため、事業主にとっては大きな負担になるでしょう。
保証協会に加入すれば1,000万円を免除してもらえるので、ほとんどの事業主が協会に加入している状況です。
保証協会にはハトのマークがシンボルの『全国宅地建物取引業保証協会(全宅)』と、ウサギマークの『全日本不動産保証協会(全日)』があります。
保証協会に加入すれば、それぞれに定められた入会金と60万円の『弁済業務保証金分担金』を協会に預けることで不動産開業が可能です。不動産業を始めるなら、保証協会には加入しておきましょう。
会社を設立する
保証協会に加入したら、不動産業の会社(法人)を設立します。
不動産仲介業は個人事業でも開業できますが、将来ビジネスを大きくしようと考えているなら開業時点から法人として活動した方がよいでしょう。個人事業よりも法人の方が、顧客から信頼されやすいからです。
会社を設立するには資本金を準備して定款を作成し、法人登記をする必要があります。具体的な手続きや必要な書類に関しては、会社を設置する場所の法務局で確認しましょう。
会社を設立して免許を取得してから保証協会に入会しても、手続き的には特に問題ありません。
宅地建物取引業免許を取得する
不動産仲介業を営む場合、宅地建物取引業免許を申請して取得する必要があります。
免許を取得するには、過去に免許の不正取得をしたといった『欠格事由』に相当しないことが条件です。
他にも不動産業者として活動するのにふさわしい事務所が存在している、宅地建物取引士を設置しているなどの要件を満たさなければいけません。
要件を満たした上で申請書類を作成し、事務所の所在地の都道府県知事に対して申請します。申請が通れば通知のハガキが届きます。
宅地建物取引業免許も宅建士と同じく更新制で、5年の有効期限が定められている点に注意が必要です。有効期限が切れる90~30日前に更新手続きを済ませられるよう、計画的に動きましょう。
参考:宅地建物取引の免許について|国土交通省
不動産開業に必要な資金
法人設立や資格の取得といった事務的な手続きだけでなく、不動産業を始めるための資金についても知識を深めておきましょう。初期費用としてどの程度の額が必要になるか、自己資金が足りない場合はどのように調達するのかを解説します。
スタートに必要な費用は高額?
不動産業をスタートするために必要な資金としては、まず事務所の開設費用があります。
テナントを利用して事務所を開設する場合、立地や規模によりますが100万~400万円の費用は必要になるでしょう。さらに事務所用の家具やOA機器、電話やインターネットの通信に必要な費用もかかります。
保証協会だけでなく、『レインズ』と呼ばれる不動産情報システムの利用には宅建協会へ加入するための費用が発生します。保証協会と宅建協会に払う金額だけで200万円近くになるため、総額で500万円近くになる可能性は考えましょう。
しかし飲食店と比べればイニシャルコストは高くありません。事業が軌道に乗ってくれば十分に賄える見通しが立ちます。
事務所の規模にこだわらなければテナント料を抑え、電話やインターネットなど最低限の設備だけでスモールスタートも可能です。高い客単価を最大限に生かせるよう、無駄な出費を避ける工夫を取り入れましょう。
日本政策金融公庫や助成金を活用しよう
不動産業を始めるには相応の資金が必要になりますが、全てを自己資金で賄う必要はありません。日本政策金融公庫の融資制度や、地方自治体の補助金・助成金を活用しましょう。
日本政策金融公庫の融資は民間の金融機関に比べて低金利で、長期間の借り入れが可能です。条件を満たせるのであれば、有効な借入先となります。
ただ融資を受けるには審査を通過する必要があり、開業に必要な費用の3~4割は自己資金を用意しなければいけません。
各地の自治体による補助金や助成金も、条件に合致すれば利用できる場合もあります。『補助金ポータル』で住んでいる地域の情報を検索し、助成金の詳細や公募期間を調べてみましょう。
新規開業資金|日本政策金融公庫
起業・創業・ベンチャーの補助金・助成金一覧|使いたい補助金・助成金・給付金があるなら補助金ポータル
開業前から意識したい売上アップのコツ
不動産業に限らず開業当初は集客方法を工夫しながら、顧客にきめ細かいサービスを提供するために努力を重ねる取り組みが重要です。使える媒体や顧客満足度の向上につながる戦略も、開業前に押さえておきましょう。
集客方法を工夫する
不動産業の集客方法には、オフラインの媒体・オンラインの媒体どちらも役立つでしょう。近年はインターネット上での集客が普及してきましたが、顧客層によっては紙媒体の方がよいケースもあります。
ターゲットとする顧客層が好む媒体を調査して、アピールしやすい方法を選ぶのがコツです。ただ紙媒体での集客をメインにする場合も、Webサイトは作っておいた方が便利でしょう。
近年はWebサイトの有無でビジネスの信頼性が大きく変わってきます。潜在的な顧客に有益な情報を提供し、問い合わせや成約に結び付ける手法も有効です。
有益で専門性の高いコンテンツを多く掲載すれば、広告を出すよりも効率的に集客できる可能性があります。
集客方法にかかわらず、効果の測定と検証・検証に基づいた改善は繰り返さなければなりません。まずは顧客リストを集めて、じっくりと成約に結び付けるアプローチを重視しましょう。
きめ細やかなサービスを提供する
開業当初の不動産業者が競合に打ち勝つには、独自の強みを生かして細やかなサービスを提供する努力が不可欠です。自社の強みは何かを認識し、それを生かしたサービスの提供を考えましょう。
例えば高所得の顧客に対して、不動産取引に関する諸々の手続きを細かい部分まで代行するのも一つの施策です。都内の大学生をターゲットとして賃貸仲介なら、引っ越しをサポートするサービスが喜ばれます。
キャッシュレス決済の導入といった取り組みも、きめ細かいサービスでファンを作るのに効果的です。特に賃貸物件の家賃をクレジットカードで決済できれば、顧客の手間が大きく減ります。
『STORES 決済』のように初期費用の安い決済システムを選べば、コストは抑えつつ顧客の満足度を上げられるでしょう。
STORES 決済 (旧:Coiney) |お店のキャッシュレスをかんたんに
必要な知識を身に付けて不動産開業の準備を
不動産仲介業は他の店舗型の事業と比較して客単価が高いため、開業のハードルが低いといわれているビジネスです。しかし資格の取得や保証協会への加入など、相応の手間と費用がかかります。
開業当初は信頼度の問題で利益を上げられない可能性も高いため、長期的な視点で集客をはじめとした戦略を練らなければなりません。自己資金が足りない場合は融資や補助金・助成金が解決策です。
開業までに必要な準備をしっかり把握して、早めに軌道に乗せられるような計画を立てましょう。