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「子や孫の代まで繋いでもらえる漆器を作りたい」十月十日のシステムで漆器を届ける「めぐる」<前編>

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毎月10,000件のショップがお商売を始めているSTORESには、個性豊かなショップオーナー様がたくさんいらっしゃいます。

 

今回は、“適量生産・適速生産”を目指した「十月十日(とつきとおか)」のシステムで漆器「めぐる」を展開する漆とロック株式会社の貝沼さんに、なぜ「めぐる」を始めたのか、商品の魅力を伝えるための工夫や予約販売機能の活用について伺いました。今回は、前編・後編に分けてお送りします。 

自信をもって勧められる漆器を作りたい

ー活動を始めたきっかけはなんですか?

 

私は会津生まれではないのですが、祖父が会津の出身ということもあって大学卒業後にここに移り住み、会津漆器に出会いました。職人さんたちの姿に心打たれ、魅力を広めるお手伝いができたらと25歳の時に起業しました。最初は職人さんたちの商品開発を手伝ったり、一般の方向けに漆器を知っていただくイベントを開催したりしていました。

 

次第にお客さんを漆器の工房にお連れするガイドツアーの取り組みがメインになっていきます。漆器づくりは工程がわかれていて分業制なので、個人で全てを見学をしたいと思ってもなかなか難しいんです。器のかたちを削り出す木地師、漆を塗る塗師、絵をつける蒔絵師、それぞれの工房を巡って見学したり、漆を育てる畑の見学や工房での制作体験など、作る人と使う人を繋げる活動を本格的にし始めました。

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会津漆器工房ツアーは必ず漆の林からスタートする

それを行っているうちに、漆器は漆を知らない若い方にもちゃんと届く余地があるなと感じました。一般の方の漆器のイメージは、「お正月にしか使わないもの」とか、「おじいちゃんおばあちゃんが使うもの」という感じだと思うのですが、本当は自然の恵みの中から生まれたもので、塗り直しもできて長く使える器なんです。

 

だから、ちゃんと漆器の背景を知ってもらうと、いいものをお直ししながら使って、木のぬくもりが感じられるってすごくいいよね、とツアーに参加した方が感動してくださるんです。弊社のツアー「テマヒマうつわ旅」の参加者は20代・30代の方がすごく多いんですよ。

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各工房では漆器の制作体験も可能

 ー意外です!

 

趣味の合う仲間でいらっしゃったり、カップルで来ていただいたり、外国人の方を連れてきていただいたり。みなさん、自然に即したものづくりに感動されます。

 

工房ツアーの開催を重ねているうちに、そうやって漆と出会って感動した方に「最初にこれを使ったら間違いないよ」と自分でも自信をもって勧められる漆器を作りたいなと思い始め、新しい漆器ブランドを立ち上げる構想を練り始めました。

 

2011年からご縁をいただいたダイアログ・イン・ザ・ダークという団体の代表、志村季世恵さん・真介さんというお二人のプロデュースのお力をお借りしながら、構想から商品作りまで含めると3年以上かかって、漆器「めぐる」が生まれました。

 

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漆器「めぐる」の「水平(左)」と「日月(右)」

その時に大切にしたのは、「最初のひとつ」ではあるけれど、一生ものとして使えるものを作りたいと思いました。買ってもらうことだけを考えたら、「安くてファッショナブルなもの」という選択肢もあったかもしれませんが、そういうものは世の中に溢れているし、私たちが伝えたい漆器の魅力はそこじゃない。

 

ちゃんとした作り方で、少々高くてもその代わりお直しにも対応して、素材がどこからきてるのかを伝えられるような、子の代・孫の代まで繋いでもらえるものにしたいと私たちは考えました。

 

人生の食べるに寄り添う

ー商品の魅力を伝えるために工夫していることを教えてください。

 

漆器そのものの魅力ということでいうと、先ほど話した「お直ししながら長く使える」ということに加えて、もう一つ絶対的に他の素材に負けないなというのが、手に包んで口につけたときの心地よさなんですよね。

 

日本の食事と海外の食事の一番の違いは、器を手に持って口につけるかどうかなんです。お箸を使う国はあっても、器に直接口をつけるのは日本くらい。西洋はナイフとフォークなので、器を手に持って口につけることはしません。アジアでも汁物を飲むにしても、基本的には匙やレンゲを使うことが多いです。

 

日本で器を持つ習慣が生まれたのは、テーブルではなく器までの距離が遠い畳の文化だったこと、そしてそれを可能にできたのは「漆器」があったからです。中にあたたかいものを入れた時に、陶器や金属だと熱くて持てないこともありますが、木の器は断熱性と保温性があるので手に持てるし、口につけても心地よい。その一連の作法そのものが日本人の食事の文化になっています。

 

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食事の度に触れる器は感性を育てる

僕が思うに、それってつまり五感を使って食事をいただくということなんですよね。触覚はもちろん、匂いとか、器を置いた時の音も含めて味わうということ。谷崎潤一郎が『陰影礼賛』で漆器について書いている一節が言い得て妙です。

 

けだし食器としては陶器も悪くないけれども、陶器には漆器のような陰翳がなく、深みがない。陶器は手に触れると重く冷たく、しかも熱を伝えることが早いので熱い物を盛るのに不便であり、その上カチカチと云う音がするが、漆器は手ざわりが軽く、柔かで、耳につく程の音を立てない。私は、吸い物椀を手に持った時の、掌が受ける汁の重みの感覚と、生あたゝかい温味ぬくみとを何よりも好む。それは生れたての赤ん坊のぷよ/\した肉体を支えたような感じでもある。(谷崎潤一郎『陰影礼賛』創元社、1939年12月)

 

個人的には陶磁器もガラスも大好きなんですが(笑)、谷崎の言うように日本家屋は薄暗かったので、その環境でいかに心身共に美しい暮らしをするかという中に漆器があったと思います。器の心地よさと一緒に食事をいただく感覚は、一度実感すると離れられなくなるし、それは一つ、漆の本質だと思います。漆の塗膜は人の肌に一番近い塗料と言われていて、触れると独特のしっとり感があります。人肌のぬくもりのような安心感があります。

 

そんなことを考えていた頃に、先ほどお話した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という活動を展開されている方たちと出会います。暗闇空間の中で視覚以外の感覚を使って日常生活のさまざまなシーンを体験するソーシャル・エンターテイメントなのですが、そこでアテンド、暗闇の案内人として活躍しているのは、専門のトレーニングを積んだ視覚障がい者の方々なんです。

 

アテンドの皆さんは、視覚に頼らずに日々暮らしているので、まさに触覚のプロフェッショナル。そこで、ダイアログ・イン・ザ・ダークさんのご提案により、アテンドの皆さんに商品開発のパートナーとして参画していただき、もののかたちや持ち心地を感じ取る優れた感性を元にアドバイスしていただきました。
そうして生まれたのが、めぐるの三つ組椀「水平(すいへい)」と「日月(にちげつ)」なんです。

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目を使わずに生きる方たちの“特別な感性”から誕生

ーここまでお話を伺って、漆器や「めぐる」の魅力をとても感じました。みなさんにその魅力をどうやって伝えていらっしゃるんですか?

 

やっぱり直接お話したり、実際に体感していただくことが一番だと思っています。首都圏を中心とした全国の飲食店・カフェ・ギャラリー等と連携して、漆器を使ったお食事会やお話会、イベントや製作体験ワークショップをこれまでに70回近く開催しています。ホームページもしっかり作って、ネットやSNSでの情報発信もしながら、直接コミュニケーションできる場を大切にしています。

 

ー茅乃舎さんでもイベントをされていますよね。

 

「ててて見本市」という展示会に出展した時に、茅乃舎さんの担当の方が来てくださって「めぐる」に共感していただきました。一緒になにか取り組みができたらというお話から、私自身も何回か福岡に足を運び、料理長さんとも直接お話しをさせていただいて、段々お互いの理解を深めてご一緒することが決まりました。

 

2018年の冬には、博多にある茅乃舎さんの店舗で「料理とうつわ展 -会津の森からおくりもの-」と題し、漆器の販売だけでなく、料理長さんによるめぐるの器を使った料理教室、漆器の入門講座などを組み合わせた展開を行いました。

 

2019年も受注会を開催していただき、福岡の里山にある茅乃舎さんの料理店では、料理長にオーダーをいただいたオリジナルの蓋物のお椀も使っていただいています。

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茅乃舎・博多リバレイン店での「めぐる」を使った料理教室の様子

 ー飲食店やカフェなど食関連とのコラボが多いですよね。

 

そうなんです。器は料理と組み合わせて完成しますから。そこは大切にしているところです。そして、めぐるの場合は、ただ器の営業やお店の宣伝ということを目的としたコラボではなくて、一緒に日本の食と器の文化を繋いでいきたい、その裏側にある自然の尊さやなりわいの物語を届けていきたいという思いでご一緒くださる方々ばかりで有り難いなと思っています。

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カフェスロー(国分寺)での「愛しの漆 vol.2」コラボメニュー

 <後編に続きます>

 

meguru.stores.jp

文:STORES Magazine編集部
写真:漆とロック株式会社提供
 
 

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